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ゲームの同人小説です。 シリアス&ほのぼの中心。 更新はかなりスローペース…
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ルクス小説第7段。

アツキ誘拐されるの巻(笑)


怖い人が助けに来ます。

格好良いリュウ・イーが今回のテーマ、だった、筈…


アツキを幸せにし隊。








息苦しさと纏わり付く複数の視線にアツキはうんざりした気分で溜息を吐いた。
騒めくホールに犇めく人々。
色鮮やかなドレスを着飾り、競うように高価な宝石を身に付けた女性達。
そんな女性達を引き連れることで自身の優劣を競う男達。
そんな彼らの間を支給服を着た男性達が忙しく歩き回っている。

アツキは喧騒から離れ、一人、壁際に佇んでいた。
とある事件で関わった資産家が開いたパーティ。
以前、世話になったからと、やや強引にアツキを招いた当の本人は騒ぎの中心で完璧な作り笑いを浮かべている。
彼を取り巻く顔ぶれは全て世界規模で活躍する富豪や資産家、政治家たちだ。
裏世界で名を轟かす有名人達も何人か出席しているようである。

そんな曲者めいた笑みを湛えた男はアツキに視線を向け、ニコリと紳士的な笑みを向けた。
周囲の客人たちを丁寧にあしらい、男はアツキへと近付く。


年齢は30半ばだろうか。
精悍な顔立ちに自信に満ち溢れた瞳。
怖いものなど何も無いと、その瞳が物語っている。
輝くような金髪に、青い瞳。
大抵の女性は一瞬で恋に落ちるだろう、その甘いフェイスに男は完璧な笑みを浮かべて見せる。



嘘で塗り固められた、仮面のような笑みを。



アツキは無表情を装いながら密かに溜息を吐いた。
笑顔の裏で揺らめく邪な感情をアツキの精密すぎるΣは感じ取ってしまう。
アルコールやきつい香水の香りに、辟易していたアツキに男は甘ったるい香水を纏わり付かせたまま近付く。
出来ることならばすぐにでもこの場を立去りたい衝動に耐え、アツキは軽く会釈して見せた。

「楽しんでもらえているかな?」

言葉と共に男はグラスを差し出す。
琥珀色の液体が優美な曲面を描くグラスの中で揺れていた。

「…本日はお招き頂き有難う御座います、Mr」

グラスを仕方無しに受け取り、形式的な言葉を紡ぐアツキに男は笑みを深くする。

「いや、こちらこそだ、アツキ。来てくれてとても嬉しいよ」

グラスを傾けながら、その青い眼が値踏みをするようにアツキを見つめている。
普段着慣れないクラシックなスーツに身を包み、長めの前髪は後に上げられ、その白い額を露にしている。
アツキの落ち着いた雰囲気とその整った容姿にそれは仄かな色気を醸し出す結果となっていた。
現に男の視線はアツキの伏せられた目元や、その白い首筋へと注がれている。
それを不快に思いながらも、アツキに逃げ場は無い。
この男がフォートに何らかの影響を与える力を持っていることは確かなのだろうから。
そうでなければ、このような欺瞞と悪意の満ち溢れた場所に赴くものか、とアツキは心中で本日何度目かもわからない溜息を吐く。

「アツキ、私の友人達が是非、君を紹介して欲しいと言っているんだが、構わないかな?」

そんなアツキの心中など気付きもせず、男はさりげなくアツキの横に並び、その腰へと手を回す。
視線の先にはいかにも好色そうな男達が口元を歪めながらこちらを見つめている。
その視線も、腰に這わされる手も、全てがアツキに不快感を齎す。

「…すみませんが、あまり気分が優れないので」

さりげなく身を捩り、距離を取ろうとするアツキを男の腕が強引に引き寄せる。

「それはいけない。すぐに部屋を用意させよう」

「…いえ、結構です」

男の体温に吐き気がする。
触れられた場所から腐敗していくような感覚にアツキは顔を顰めた。

肩や腰に触れる男の腕に本気で拒否をしようとアツキが力を込めた瞬間、男の腕はあっけなくその身体から離れ、宙に浮いた。



「嫌だと言っているのが解らないようだな」

低いその声にアツキは呆然と佇む。
アツキの視線の先、男の腕を掴みあげ、鋭い眼差しを向けたその姿。
口元に浮かぶ笑みは今までに見たことが無いほどの怒りを湛えていた。
周囲の気温すらも下げる絶対零度の微笑。

「…リュウ・イー」

男が忌々しそうに口を開く。
腕を振り払おうとする仕草にもリュウ・イーは微動だにしない。
五本の指で軽く掴まれているようにも見えるその腕は男がどれほど足掻いても外れない。
それどころか次第にギリギリと力が込められ、男の顔に苦痛の色が浮かんだ。

「あまり、それに気安く触らないで貰おうか。貴様程度が触れたところでそれが穢れるとは思わないが、些か不愉快だ」

感情を消した低い声音。
虫けらでも見るような冷たい眼差し。

「っ貴様、誰に向かってそんな口をっ」

隠そうともしない嘲りの言葉に男が激昂する。
それを鼻で笑いリュウ・イーは指に力を込めた。
男の顔が更に歪む。

「喚き散らすな。耳障りだ」

痛みに呻く男を投げ捨てるように放したリュウ・イーは無駄の無い動きでアツキへと寄り添うとその腰を引き寄せ、未だアツキの手に握られていたグラスを奪い、その場で痛みに蹲る男へと傾けた。
よく冷えた液体が男へと注がれる。
怒りに震える男の目前に空になったグラスが落とされ、軽やかな音を立てて砕け散った。

「…君が、そこまで愚かだとは思わなかったよ、リュウ・イー」

男の怒りを含んだ低い声にもリュウ・イーの笑みは絶えない。

「貴様こそ、身の程を知るべきだな」

「…なんだと?」

男が殺意すら込めてリュウ・イーを睨み付ける。
突然の出来事に周囲はざわめき、遠巻きに事の次第を見守っている。
好奇の眼差しと、男への嘲り。
中には突然現れたリュウ・イーへと向けられる女性の熱い視線さえも感じられた。

突然のことで呆然としていたアツキも漸く我に返る。

何故この場にリュウ・イーがいるのか。
招待を受けたのは確かアツキ一人の筈だ。
そして、リュウ・イーのこの態度。

これでは男の怒りを買う事は目に見えている。
むしろ、既に男は怒り狂っている。

これでは何の為にアツキが耐えていたのか解らない。
リュウ・イーを諌めようとアツキが口を開こうとした瞬間、リュウ・イーの腕に力が込められ、アツキの痩身を強く抱き寄せた。

「あまりフォートを、レイ・プラティエールという男を侮らないことだ」

凍えるような、その声。
周囲に緊張が走る。
《レイ・プラティエール》と言うその名を耳にしただけでその場にいた大半の男たちは震え上がる。
急ぎ、その場を立ち去るもの、自分は無関係だと半狂乱で叫びだすもの、様々なその反応に男は呆然としたように辺りを見渡した。

「たかが一度、フォートと関わりを持ったからと言って頭に乗るな。貴様程度、いつでも始末できるということ肝に銘じておけ」

冷たく言い捨て、リュウ・イーはアツキを抱えたまま出口へと歩き出す。

「今回、アツキを寄越したのはレイ・プラティエールの預かり知らぬ事だ。それがどれ程恐ろしい事か、貴様のお仲間は今頃、嫌という程思い知っているだろうよ」

擦れ違いざまリュウ・イーが吐き捨てたその言葉に男の青い目が見開かれる。


「身の程を知ると言うことは、そういうことだ、Mr」


リュウ・イーは冷たい言葉とともにその場を後にした。
振り返りもしないその姿を、男はただ呆然と見つめていた。
 



アツキが半ばリュウ・イーに引きずられるように玄関を出たのと同時に黒い自動車が横付けされる。
運転席では見知った男がこちらに手を上げ笑いかけていた。

「野口さん…」

呆然と呟くアツキをリュウ・イーが押込むように車に乗せた。
次いで自身も乗り込むと後部座席のドアを乱暴に閉める。
その苛付いた仕草にアツキは目を瞬かせ、野口は苦笑を浮かべた。

「無事で何よりです、西条さん」

人好きのする笑みを浮かべ、野口は車を発進させる。
瞬く間に建物の煌びやかな灯りが遠ざかって行く。

「いったい、どういうことなんです?なぜ此処に?」
「それはこちらの台詞だ」
戸惑うアツキの言葉をリュウ・イーが遮る。
声には怒りの色が強く滲み出していた。

「なぜ、断りも無く一人で出向いた?どうなるか解らない訳ではなかっただろう?」

きつい口調と鋭い眼差し。
その苛烈さに思わずアツキは俯いた。



確かに、今回の招待の裏にあの男の下心が含まれていたのは知っていた。
前回の任務より、何度もあの男はアツキにモーションをかけていたのだ。
その都度、何かと理由をつけ、アツキは誘いを断り続けていた。
時にはリュウ・イーがその対応をすることもあった。
それでも次第にエスカレートしていく男の行動に、フォートは任務に支障をきたす恐れがあると判断し、一切の接触、干渉を遮断した。

本来ならば任務完了時に関係者の記憶は削除されるはずだった。
しかし、彼がフォートに多額の寄付をした件もあり、フォートの存在や事件の実態を口外しないことを誓約し、資金面でフォートに協力するということを条件に記憶操作を免れていた。
彼のバックに存在している様々なネットワークからの圧力もまた、それに関わっていた。

案の定、その後、次々と起こるフォートへの妨害。
各地でその被害は増大し、ついには任務を中断せざる終えない結果となったのだ。

その結果、齎されたサイレントの感染拡大。
多くの命が失われた。

少なからず、その責任が自分にもあると、アツキはそう感じていた。

彼の要求を呑めば、どのような扱いを受けるかは明白だった。
それが耐えがたい屈辱であることも理解していた。

それでも、目前でサイレントによって失われていく命を見ることよりはましではないかと、そう思ったのだ。


救えるはずだった人たち。
守れるはずだった日常。

それが目の前で奪われていく、この怒り、苛立ち。

耐えられなかった。

だから、最後通告のように手渡された招待状に従い、先程の場所に出向いたのだ。

「それは、そうするのが最善だと、そう思ったから…」

「それはお前が判断する事か?」

アツキの力ない声をリュウ・イーは容赦なく遮る。
リュウ・イーの眼差しは未だ怒りを湛えたままだ。

「…でも、現に被害は増大するばかりだった。このままでは任務遂行も難しい。サイレントを滅ぼすこともできない」

「だからといって、お前が出向く必用はなかった。違うか?」

両者譲らない攻防に野口は思わず苦笑してしまう。

「…何か?」

「いや、別に」

リュウ・イーの不機嫌な声に慌てて口元を引き締める。

「…とにかく、勝手な行動は慎めと、そう言っているんだ」

大きく息をつき、リュウ・イーがアツキから顔を背けた。
その不貞腐れたような態度に、引き締めたはずの口元が緩む。

「………」

今度は視線のみ。
かなり、怒気を含まれた視線だったが、一応の許しは得たとばかりに野口は口を開いた。

「西条さん、今回は貴方が悪い」

苦笑の混じるその言葉にアツキは意志の強い瞳を向ける。

「でも、」

「今回のことで、どれだけ俺達が心配したと思ってるんです?俺達だけじゃない。リュンクスのお嬢さん方も、うちの姐さんも、皆が肝を冷やしたんだ。」

「それは、すまないと、思っている。だけど…」

まだ、納得していないアツキに、野口は悪戯気な笑みを浮かべた。

「勿論、そこにいるファルコの旦那も、ね」

野口の言葉にアツキはそっと、隣に座るリュウ・イーの表情を窺う。
相変わらず眉間に皺がよった険しい顔のままだが、その気配は若干、和らいだようだ。

「西条さんを救い出すまで、もっと怖い顔をしてらしたもんでね。こっちは生きた心地がしませんでしたよ」

苦笑を浮かべたままのその言葉に滲む疲労の影。
どうやら嘘ではないようだ。

現にリュウ・イーは口を挟まず沈黙している。
間違っていれば容赦なく訂正を入れるこの男がそれをしないということは十中八九、真実なのだろう。

「…リュウ・イー」

アツキのどこか戸惑ったような声にリュウ・イーが溜息を吐く。

「いつものことだ、と諦める方が利口か」

投げやりなその言葉に野口は苦笑を浮かべた。

「諦められないから、こうして此処に居るんでしょう?」

その言葉にリュウ・イーは無言で眼を閉じると、深々とシートに身体を預けた。

「…すまない」

疲労感を隠さない二人にアツキが頭を下げる。
思うところは多々あるが迷惑をかけたことに変わりは無い。

目に見えて消沈したアツキに野口が困ったように笑う。

「西条さん、追い討ちをかけるようで悪いんですが、帰ったらもっと怖い人が待ってますよ」

「…怖い、人?」

首を傾げるアツキにリュウ・イーが楽しげに笑う。
その性質の悪い笑みにアツキの頬を汗が伝う。

「アレはかなり頭に血が上っていたからな。どうなるかは俺にも予想が付かんが、まあ、自業自得だ。諦めろ」

先程までの機嫌の悪さはどこへ行ったのか、滅多に見ることのできない満面の笑みにアツキの顔が引き攣る。

「…怖い人って、まさか」

「…まあ、何と言うか、こればっかりは俺にもどうしようもないんで、腹を括って下さい」

野口の言葉にアツキの表情が暗く沈む。
≪怖い人≫と例えられた人物を思い浮かべて重く溜息をついた。

「…怒ってた、かな?」

「あー、まあ…携帯端末を壁に叩きつけるくらいには」

苦笑の混じる野口の言葉にアツキの顔色は更に悪化した。
それは、相手の怒りがかなりのレベルにまで達している、ということだ。

「アツキ、本部の二人も怒り狂っていることを忘れるなよ」

楽しくて仕方ないという顔をしたリュウ・イーが沈んだアツキに止めを刺す。
情けなく眉尻を下げ、弱り果てたアツキの表情にリュウ・イーは声を出して笑い、野口は哀れみの眼差しを送った。





アツキを乗せた車は渋滞に巻き込まれることもなく進んでいく。
怒り狂った乙女達の待つ要塞へと。


アツキに逃げ場はなく、救いの手は指し伸ばされない。

何故なら、アツキは既に救われ、その掌に包まれているのだから。
待ち受ける怒りの嵐は、アツキへと向けられる想いの証。


彼はいつ気付くだろうか。
これほどの愛に包まれていることを。


早く気付いてくれると良いのだが。


そうでなければ、こちらの身が持たない。
彼の周りは、敵に回すと恐ろしい人物ばかりが集まっているのだから。



野口は二人に聞こえないよう、そっと溜息を付いた。
取り敢えずは一刻も早く戻らなければ。


敬愛する上司の怒りが自分に及ぶ前に。


それぞれの想いを乗せて車は進む。
辿り着く場所は一つ。



「オカエリナサイ」といってくれる場所へ。



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