ゲームの同人小説です。
シリアス&ほのぼの中心。
更新はかなりスローペース…
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ルクス小説第6段。
いじわるリュウ・イー(今回のテーマ)
アツキはきっと人気者(願望)
そしてアヤ姐は最強で苦労人。
…管理人はリュウ・イーに夢を見過ぎていると思う(今更?)
長島アヤはテーブルに頬杖を付き、溜息を吐いた。
長期任務がようやく空けたというのに前々から希望していた長期休暇はいまだ与えられず、南の楽園は果てしなく遠い。
終わらないデスクワークにうんざりし、ひと時の安らぎを求め、フォート内部のカフェへと足を向けた。
鼻孔を擽るコーヒーの香り、色取り取りのフルーツが盛り付けられたタルト。
落ち着いた雰囲気、耳に心地良い音楽。
目前の椅子に悠然と座る長身の男。
長い足を優雅に組み、カップを口元に運ぶ仕草にさえ一部の隙もない。
その切れ長の瞳は鋭い刃を思わせる。
「…顔だけなら、充分に目の保養なんだけどね」
赤い唇に笑みを浮かべ、アヤは悪戯っぽく目を細めた。
「随分な言われようだな」
口元に浮かぶシニカルな笑みは女性達の目を奪い、よく響く低い声はその心を震わせる。
野生の獣のようにしなやかな身のこなしは、文句なしの『イイオトコ』
その、苛烈なまでの内面を知らなければ、の話だが。
「気を悪くしたなら謝りましょうか?リュウ・イー」
タルトを突付きながらのアヤの言葉には全く心が篭っていない。
元よりさほど悪気があって言った言葉ではないし、リュウ・イーも口で言う程気にしてはいないのだから。
宝石のようなフルーツを口に運びながら、その整った顔を眺める。
そのストイックな雰囲気の中、片耳にだけ付けられたピアスがどこか浮いているように感じた。
正直、似合わない、とそう思った。
「…似合わないわね」
思ったことが口から出るのはいつものことだ。
これで何度、騒ぎを起こしたことか。
それでもその癖は直らない。
アヤ自身に直す気がないのだ。
長島アヤとはそういう女性だ。
おかげで部下は苦労する。
それでもアヤを慕う部下は多い。
この裏表のない性格がアヤの美点とも言えたからだ。
『姐さん』と呼ばれ、慕われる所以は此処にある。
似合わない、と聞きようによっては酷い言葉を浴びせられた男は気にした様子もなくカップを口元に運んでいる。
どうやら、こちらを無視することに決めたらしい。
この気難しい男とコミュニケーションを取れる人間は珍しい。
仕事は完璧だがそのメンタル面に問題があるのだ。
命令無視は当たり前、ペシミストでマイペース。
『唯我独尊』という言葉はこういう人間の為にあるのだろう。
自分のことは棚上げしたまま、そんなことを思う。
長島アヤとはそういう女性だった。
たっぷりと盛り付けられたクリームを口に含む。
優しい甘さが疲れを癒してくれるようだった。
リュウ・イーは元来、寡黙な男だ。
アヤもまた、この気難しい男と世間話が出来るほど深い付き合いでもなかった。
自然、訪れる結果は、沈黙。
アヤはタルトを頬張り、リュウ・イーはコーヒーを啜る。
その場の落ち着いた雰囲気も合わさり、遠目から見る分には、お似合いの恋人同士に見えなくもない。
実際は単なる店の混雑による相席に過ぎないのだが。
どちらも顔だけは人並み以上に整っているため、一種、近寄りがたい迫力を醸し出す結果となっていた。
アヤは小さく溜息を吐いた。
先ほどからずっと周囲の好奇の目に曝されているものの、席を立つのは躊躇われる。
部署に戻れば途方もない量の始末書や報告書が残っているのだ。
出来るだけ長く休憩を取りたいという心理が腰を重くさせていた。
ふと、カフェの入り口付近から小さなざわめきが伝わり、そちらに視線を向ける。
見覚えのある姿だった。
光を弾くグレイアッシュの髪、やや女性的な整った顔立ち、そして、それらのどれよりも目を引く、金と黒のオッドアイ。
『西条アツキ』
ゼロの世界を支配する男。
ピークスの、いや、フォートの中にその名を知らない者はいない。
それは、先ほどからアツキに視線を向けたまま動かない目前の男にも当て嵌まることだが。
「彼の探し人は貴方?」
誰かを探しているのか、しきりに周囲を見渡しているアツキをフォークで指し示しながら目前の男に尋ねる。
「そのようだな」
答えながらもリュウ・イーは動かない。
その口元に浮かぶ質の悪い笑み。
その表情にアヤはアツキに同情の眼差しを向けた。
どういう事情があるかは知らないがアツキはリュウ・イーを探している。
リュウ・イーは探されていることを承知の上で動かない。
それなりに広いカフェなのだ。ましてやこの混雑の中、人一人見つけ出すのは大変だろう。
手を上げるなり、声を掛けるなりしてやれば良いものを。
『好きな子ほど苛めたい』
ふと、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
この一見、冷酷そうな男があの少年を存外、気にかけていることは、前回の任務で知っている。
その感情がどういった種類のものであるかは知らないが、気に入っていることは確かだろう。
その楽しげな表情はまさに苛めっ子のそれ。
この男にもそんな子供じみた心理があるのかと、どこか感慨深く思う。
「…意地の悪い男は嫌われるわよ?」
揶揄混じりに告げた言葉に男は声なく笑う。
それでも男は動かない。
視線はアツキに向けたまま。
ふと、その眼差しが僅かに細まった。
「…あれは、ピークスの雛か」
唐突な言葉に、思わず眼を瞬かせる。
リュウ・イーの視線の先、アツキに近付いて行く男が見えた。
男はアツキに親しげに声を掛け、何事かを話している。
どうやらアツキを自分の席へと誘っているようだ。
「あの馬鹿…」
思わずアヤは片手で顔を覆った。
あの見覚えのある顔。
最近、ピークスに配属された歳若い青年だった。
そう言えば以前、アツキのファンだと騒いでいたのを思い出した。
よりにも寄って、この男の前で彼に声を掛けるとは、なんと運のない男なのか。
虎の尾を踏む、とはこういうことを言うのだ。
頭を抱えるアヤの前でリュウ・イーの笑みは深くなる。
あまり見たくない類の笑みだと、アヤは内心冷や汗を掻いた。
そんなことは露知らず、『ピ-クスの雛』と称された青年は終始笑顔でアツキに話しかけている。
どうやら同席を断るアツキをどうにか自分の席まで連れ行こうと頑張っているようだ。
青年がアツキの腕に触れた瞬間、リュウ・イ-が席を立つ。
「随分と度胸のある雛を飼っているじゃないか」
低い声が響く。
リュウ・イーの気配が凍えていくのを感じた。
「…精々、眼を光らせておくことだ」
暗に、次はない、と告げているのだろうか。
その言葉にアヤは疲れたように溜息を吐いた。
「よく言い聞かせておくわ」
金の瞳持つ美しい猫の傍らには恐ろしい虎がいる。
これもまた、ピークスの中では有名な噂。
啄木鳥が虎に勝てるはずもなく。
ましてや雛ではお話にもならない。
アヤへと一瞥を残し、未だ問答を続けている二人へとリュウ・イーが近付く。
彼に気付いたアツキは安堵の表情を浮かべ、ピークスの青年は凍りついた。
青年のことなど視界にも入れず、リュウ・イーがアツキへと何事かを話しかけている。
ニ、三、言葉を交わし、リュウ・イーの手がアツキの背中を押す。
強引にカフェの出口へと誘うリュウ・イーにアツキは戸惑った表情を浮かべるも、首を傾げながらその場を後にした。
残された青年に、リュウ・イーが近付き、何事かを囁いた。
青年の顔色が面白いほど青く染まり、その身体が小刻みに震えだす。
ついには腰が抜けたように座り込んだ青年をリュウ・イーは冷たく一瞥し、踵を返した。
去り際、アヤの方へ視線を向け、口元に笑みを浮かべる。
『後は任せる』
口元のみの動きで伝えられた言葉に渋々頷く。
恐らく、あの青年は暫らく使い物にならないだろう。
新たなる問題にアヤは何度目かの溜息を吐いた。
皿に残されたタルトを頬張り、冷めたコーヒーを流し込む。
甘いはずの一時は無慈悲にも終わりを告げた。
後に残るのは、大量の書類と、未だ座り込んだまま震える青年。
南の楽園は、果てしなく遠い。
END
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