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ゲームの同人小説です。 シリアス&ほのぼの中心。 更新はかなりスローペース…
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ルクス小説第4段。

『闇は月に乞う』の続編です。

アツキに膝枕をして欲しかっただけ(笑)


いつもより若干甘めです。


リュウ*アツキ(ほのぼの)








悪魔、と呟いた唇が震えていた。

彼女の顔は蒼白く、瞳には絶望が揺らめいていた。
目覚めることのない想い人の身体に縋りつき、声を上げて泣いていた。

それはまさに慟哭と呼ぶに相応しいものだった。





ぎこちない笑顔が浮かんだ。
自分と歳の近い男だった。

『あいつ』と同じ、心を読む能力者。
一時的なパートナー。
『あいつ』ほどの能力は感じられなかった。


よく笑い、よく喋る、そんな男だった。




急な任務だった。
『あいつ』はいない。別の任務に借り出された。

見知らぬ町。
やるべきことは変わらない。

ただ、『あいつ』がいない。



猟奇殺人。集団自殺。オリジナルサイレント。感染。駆除。

幾つもの言葉が脳裏を過ぎ去り、消えていく。

心の中、鈍く響く警鐘。
経験が語る。


既に、手遅れだ、と。


重い扉。暗い室内。
扉の隙間から差し込んだ光に反射する床。

一歩を踏み出し、その間違いに気付く。

光を跳ね返していたのは、床ではなく、そこに広がる血溜りだと。

錆びた匂いが鼻を掠めた。

血溜りに、一人の男が立っていた。

その腕も、顔も、全身を血で赤く染めた男がゆっくりと顔を上げる。

その唇が、笑みのように歪み、言葉を吐き出した。





『悪魔』





足元から闇が絡みつく。

ふと、その手に温もりを感じた。





湿った感触、指に触れる、柔らかな、

それは、

彼の、







「リュウ・イー!」

強く肩を揺すられ、跳ね起きる。
心臓の音が煩い。
まるで耳の横で鳴っているようだ。
首筋を汗が伝う。

体中にじっとりと汗を掻いているのに指先は氷のように冷たくなっていた。
ベッドではなくソファで横になっていた所為か身体の節々から軋むような痛みが伝わる。

「リュウ・イー?」

まるで耳鳴りのような鼓動の音が徐々に静まってくる。
名を呼ばれ、顔を上げればこちらを窺う見慣れた顔。




左は夜。右は月。

『闇と光』

相反する二つを閉じ込めた眼差し。
故に、それは全てを見通す。




そう彼の瞳を表現したのは誰だったか。

「…アツキ」

普段よりも掠れた自分の声が響く。
喉に引き攣ったような痛みが走る。

言いようのない不快さに、思わず口元を片手で覆った。

徐々に意識が鮮明になっていく。
夢を見ていたのだと、漸く気付いた。

「…大丈夫か?」

アツキが遠慮がちに問いかけてくる。

「何が?」

酷くささくれ立った気持ちが声を尖らせた。
僅かに言い淀む気配に顔を上げる。

「…魘されていた」

ポツリと告げられた言葉に小さく舌打ちをする。

見られたくないものを見られた。

苛立つ心にアツキに向ける視線もきつくなる。

「どうやって入った?」

誤魔化す様に話題を変える。

フォート施設内に設けられた各居室はセキュリティを重視した造りになっている。
指紋、声紋、更には専用コードを入力しなければ扉は開かない。

「…レイ所長が、開けてくれた」

どこか良い辛そうにアツキが視線を逸らす。
その言葉にリュウ・イーは眉を顰めた。

「成程。制御室から直接セキュリティを解除した、と言う訳か。随分と大掛かりな事をしたものだな」

更に鋭くなっていくリュウ・イーの眼差しにアツキは首を竦める。
黒々と渦巻く怒気に後退るアツキの腕を掴み、睨み上げる。

「…さて、弁明を聞こうか」

口元を歪めるように笑うリュウ・イーにアツキの顔が微かに引き攣っていた。








ことの始まりはフォート所長、レイ・プラティエールの何気ない一言だった。


『リュウ・イーが酷く消耗しているようだ』


リュウ・イーから僅かに遅れてフォート施設へと帰還したアツキにいつも通りの涼やかな声で彼はそう告げた。





別行動をとっているとはいえ、その動向の全てが分からない訳ではない。
どのような事件で、どのような結末を向かえたか等はオペレータルームに記録され、必要ならばそのデータを知ることも出来る。

アツキもノーラから今回の事件についての報告は受けていた。

リュウ・イーがパートナーの心を食らったことについても聞かされている。

リュウ・イーの取った判断は間違ってはいない。
おそらく、その場に自分がいても、何も変わらなかっただろう。

サイレントに深層までも食い荒らされていては、手の施しようがないのだ。
よしんばサイレントのみを削れたとしても、残るのは廃人と化した抜け殻だけだろう。

アツキは現場を知っている。
感情に揺らいだ判断が被害を大きくすることもあるのだと、その身をもって知っているのだ。

故に、リュウ・イーがアツキを叱る理由も理解している。



それでも、とアツキは思う。
救えるのならば、可能性の光が僅かにでも見えるのならば。

救いたい、とそう思うのだ。



「アツキ」

物思いに耽っていたアツキはレイの声によって引き戻された。

「リュウ・イーが酷く消耗しているようだ」

アツキの横を通り過ぎざま、思い出したように告げられた言葉にアツキは彼を見上げた。

相変わらず、何を考えているのか、まるで読み取れない美しい顔が微笑んでいた。

「気になるのなら、様子を見に行くと良い」

アツキの言葉を待たずに告げる。
まるで、心のうちを呼んだようなその言葉にアツキは思わず視線を逸らした。

先ほどの報告を聞き、気になっていたのは確かだったからだ。

「消耗しているのなら、ゆっくりと休ませるべきでは?」

もしかしたら既に休んでいるかもしれない。
その場合、その行動は迷惑でしかないだろう。

アツキの言葉にレイは微笑を深くする。
要領を得ない生徒を諭す、教師のような顔だった。

「声をかけずとも、様子を見てくるだけで良い。セキュリティはこちらで解除しておこう」

アツキが答えを返す間を与えず、レイはオペレータルームを後にした。
後に残されたのは、呆然と佇むアツキと、哀れむような眼をしたノーラ、そして居心地悪げなリュンクスのメンバー達の視線だった。









「…リュウ・イー」

どこか困惑気なアツキの声が頭上から響く。
リュウ・イーは眼を閉じたまま、何だ、と応じた。

「俺は、何時までこうしていたら良いんだ?」

アツキが身じろぐ僅かな振動がリュウ・イーの頭部へ伝わる。
動くな、と軽く叱責し、リュウ・イーは再び沈黙する。

アツキの溜息が微かに聞こえた。

「…なんで、この体勢なんだ」

ポツリと呟くアツキにリュウ・イーは瞳を開き、いつものシニカルな笑みを浮かべて見せた。

「人の眠りを妨げておいて、詫びの一つもせずに帰るのか?」

リュウ・イーが「詫び」と託け、アツキに強要したもの。

ソファに長々と横たわったリュウ・イーの頭部を膝に乗せ、アツキはその感触と、伝わる体温に落ち着かな気に身じろいだ。

「こら、動くな、アツキ」

眠れん、と揶揄の響きを含ませた言葉にアツキは呆れたように再度、溜息を吐く。

「ベッドで眠った方が良いと思うが…」

疲れているんだろう?とリュウ・イーの額に軽く手を触れる。
普段、低めの体温が常よりも若干、高く感じられ、アツキは僅かに顔を顰めた。

「熱があるのか?」

額を覆う冷たい指先の感触にリュウ・イーは目を細める。

「…介抱する気があるなら、大人しくしていろ」

呟き、リュウ・イーは眼を閉じた。
そう返されてしまえばアツキは動けない。
理不尽な命令に疑問を感じつつも、その言葉に従う。
まさか朝までこのままなのかと、途方にくれるアツキにリュウ・イーは意地の悪い笑みを浮かべた。

「冗談だ、本気にするな」

クツクツと喉奥で笑うその姿にアツキが眉を顰めた。

「では、退いてくれ」

拗ねた様な物言いにリュウ・イーの笑いは止まらない。
何時までも笑い続けるという、ある意味珍しいリュウ・イーの姿にもアツキの機嫌は下がる一方だ。

「…リュウ・イー」

低くなったアツキの声にリュウ・イーは漸く笑いを収めると不意に寝返りを打ち、アツキから笑んだ表情を隠した。

「そう拗ねるな」

アツキの腹部に顔を埋めたまま喋るリュウ・イーにアツキは身を捩った。
更に近くなった体温や、吐息を感じ、身じろぐ。

「リュウ・イー」

咎める様なアツキの声にもリュウ・イーはその体勢を崩さない。

「俺を、心配して来たのだろう?なら、少し付き合え」

眼を閉じたその姿に、アツキは困惑した表情を浮かべ、首を傾げた。





結局、そのままアツキはリュウ・イーを膝に乗せたまま、数時間を過ごし、いつの間にか二人して眠り込んでいた。

アツキもまた、任務が明けたばかりだったのだ。
疲労していない訳がない。

流石にこのままにして置く訳にもいかず、ソファに凭れて眠るアツキを抱え、リュウ・イーは寝室へと移動した。
アツキを横たえ、その隣へと身体を滑り込ませる。



身近に感じる体温と鼓動の音に、リュウ・イーもまた、久しぶりに穏やかな眠りへと引き込まれていった。








気付いた時には更に数時間が経っていた。
室内に備え付けられた時計に眼をやり、リュウ・イーはゆっくりと身体を起こした。

乱れた髪をかき上げ、アツキへと視線を移す。

白いシーツに包まれ、穏やかな寝息を立てているその表情は心なしか常よりも幼く見えた。

ギシリと軋むスプリングにもアツキは目を覚まさない。

その寝顔に、先ほど見た悪夢が重なる。







血溜まりに、アツキが佇んでいた。

黄金の瞳から血を流し、その左腕をもぎ取られ、全身を赤く染めながら、アツキが微笑んでいた。

その口元が歪み、唇が言葉を紡ぐ。



『悪魔』



次の瞬間、リュウ・イーは闇に包まる。

気付いたとき、その手に残っていたのは。



赤く彩られた、アツキの、首。



滑りを帯びた血の感触。
湿った髪に指を絡ませ、引き寄せる。



その唇に、そっと触れた。



口付けは、予想以上に、甘く。
ああ、狂っているのか、と漠然と思う。

きっと、こうなることを望んだのは、自分だ。

失われるのならば、この手で。



この輝きを、永遠に。





夢と現を彷徨うような感覚の中、ふと思い立ち、眠っているアツキの首に片手を添える。
細い首だった。

このまま力を込めれば、簡単に縊り殺せるだろう。

「…アツキ」

低い呼びかけにアツキの睫が震えた。
ゆっくりと瞼が上がる。

「………リュウ・イー」

吐息のような微かな声で、アツキがリュウ・イーに応える。
ぼんやりと開かれた金と黒の瞳に、そっと手を首筋からその頬へと滑らせた。





まだ、その時ではない。

心の中で小さく呟く。


まだ、今は、まだ。

アツキが、その名を呼ぶ限りは。





寝ぼけた眼をしたアツキに微笑む。
リュウ・イーにしては珍しい、穏やかな笑みだった。

「そろそろ、起きろ。ブリーフィングに遅れるぞ」

アツキがぼんやりとした顔のまま、身体を起こす。
シャワーを浴びようと立ち上がったリュウ・イーが視線を感じ振り返ると、常よりも幼い眼差しをしたアツキと眼が合った。

「…眠れたか?」

完全には目が覚めていないのか、寝ぼけた表情のまま、リュウ・イーへと訊ねる。

「…ああ、そうだな」



久しぶりに、よく眠れた。



小さく呟き、リュウ・イーはシャワールームへと姿を消した。
それを見送り、アツキは再びシーツへと潜り込むと、独り呟いた。



…良かった、元気になって







シャワーを終えたリュウ・イーにアツキが叩き起こされるのは、また少し後のこと。

いつも通りの日常が帰ってくるまで、あと少し。



ささやかな幸せを噛み締めながら、アツキはゆっくりと瞳を閉じた。








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